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原発問題の科学検証シリーズ(1) 矢ヶ崎克馬氏

2011年08月22日 13:02

福島原発事故以来、反原発運動の中の非科学的主張の横行には呆れるばかりで、それは今もずっと続いている...というか、むしろ酷くなるばかり…

広瀬隆氏のような問題外もいるが、今回から色々な人の放射線被害に関する主張を科学的に検証してみたいと思う。遅かりしの感もあるが、こんなトンデモ主張ばかりを野放しにしておいたのでは、私が望む脱原発すら危うくなるという危機感が頂点に達したからであることをご理解ください。

第一回目は、内部被曝問題ではよく引き合いに出される琉球大学の矢ケ崎克馬名誉教授の非科学的主張を指摘しておく。

題材は、以下の「内部被曝についての考察」という論文。
http://www.cadu-jp.org/data/yagasaki-file01.pdf

まず、ICRPのモデルについて、「吸収線量を、被曝した微小領域で本来規定すべきであるが、臓器当たりの平均量で評価することを基準とすると宣言していて、この方法は内部被曝を科学的に評価できるものでは無く、恐ろしく過小評価するものだ」としている。

その根拠として、内部被曝で特に問題になるα線とβ線の電離モデルと、主に外部被曝で問題となるγ線の電離モデルを示している。

そして、そこではγ線による電離は分散型で、α、β線の電離のように連続した原子がイオン化されることがないかのような解説が絵付きでなされている。

正直これを見たときはびっくり仰天した。
γ線がどのようにして被曝を引き起こすのかをまるで理解できていないからだ。
今回福島で問題となっている核種が出すエネルギーのγ線であれば、ほとんどが光電効果とコンプトン効果によって高速の電子を弾き飛ばす。つまり、γ線自体が電離を引き起こすのではなく、はじき飛ばされた高速の電子が2次的にその軌跡の原子を励起・電離させるのである。

で、β線も高速の電子である。
同じ電子線なのだから、そのエネルギー(速度)が同じであれば、その影響も全く同じである。

つまり、β崩壊で生まれた0.5MeVのβ線と、γ線由来の0.5MeVの光電子線とは、それ自体の励起・電離作用は
全く同じである。

光電効果: γ線のエネルギーとほぼ同じエネルギーの電子線(β線)を発生させる。
コンプトン効果: γ線のエネルギーを、電子線(β線)とγ線(エネルギーが減る)とに分割する。
#なお、今回は電子対生成についての考察は省略している

この辺りの話は、あまりにも基礎の話で、こんなレベルで間違っていたのでは話にならない。
もっときちんとした話をお知りになりたい方は、反原発で有名な安斎育郎氏の著作を参照されたい。

矢ケ崎氏の内部被曝が恐ろしいという主張のベースは、こんな超基礎から間違っている。
こんなトンデモ科学を根拠に考察を進めても、まともな考察ができようはずがない。

どうも矢ケ崎氏は、α線、β線の内部被曝は同様の重大な危険性を持っていると考えているようだ。
しかし、既に述べたように同じエネルギーを吸収した場合には、β線とγ線では、同じ電子線による被曝なので基本的に同じである。
逆に、ICRPは、α線の被曝こそが、β線やγ線よりも同じエネルギー吸収でもずっと危険(20倍危険)だとのモデルを採用している。

どちらが科学的かは明らかである。

なお、内部被曝が外部被曝と同じだなどと言っているのではない。
α線、β線核種は内部被曝でのみ問題となり、体内で崩壊すれば確実に被曝してしまうので、それをなるだけ取り込まないように注意を払うのは当然。
また、ヨウ素131のように特定の臓器に集中する核種は、それだけその組織の被曝密度が高くなるので要注意である。
しかし、全身に散らばるK40のような核種でのβ線被曝は、それと同じエネルギーをγ線被曝によって受けたのと、励起・電離の影響だけを見ればほとんど同じはずである。

で、ICRPは核種別に、生体内での経路や振る舞いを考慮した内部被曝計算モデルを採用している。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001cyyt-att/2r9852000001cz7c.pdf

矢ケ崎氏が、どこまでこれを理解してICRP批判をしているのか?はなはだ疑問である。

さらに矢ケ崎氏の論文では、氏の考察を裏付ける根拠として、「アメリカにおける原子力発電による低線量被曝」の研究として、LEUREN MORET氏らの調査を紹介している。
で、この人は、あの地震は人工地震だ!と主張しているトンデモさんである。
http://jmatome.blog39.fc2.com/blog-entry-205.html

よって、このRPHPによる「アメリカにおける原子力発電による低線量被曝」報告にも、眉に唾をつけながら見ざるを得ないだろう。


コメント

  1. さつき | URL | HplzzCEs

    誤解では

    Looperさん、お久しぶりです。
    ちょっと誤解があるようなので指摘させていただきます。
    その前に、このブログの8月23日のエントリー「原発問題の科学検証シリーズ(2) 野呂美加氏」の主張に賛意を示しておきます。
    論点は二つあります。

    1)矢ヶ崎さんがリンク先のpdfファイルで主張されていることの趣旨は、α、β、γ線それぞれの透過能力(電磁波であるγ線については半価層や1/10価層の厚さ、粒子線であるβ線、α線については飛程)は大きく異なるが、同じエネルギーでも透過能力の弱い放射線ほど電離作用が局所化するので、内部被曝の危険性が高まるというものです。

    例えば、2.2 MeVのγ線の鉛(比重11.34)の半価層は1.4 cmで、人体の比重を1.0と仮定すると、人体中では16 cmほど進んで、つまり人体をほぼ突き抜けて、そのエネルギーの半分だけが失われます。Looperさんが書かれたように、その途上での電離作用では電子線が介在していますが、その影響は広範囲に<薄く>広がる訳です。

    一方、同じ2.2 MeVのβ線の最大飛程は、人体中でおよそ1 cmとなります。体内のある一点にβ線源がある場合、飛程1 cmの途上でその全てのエネルギーが失われ、人体組織へのダメージが局所化します。

    損傷した遺伝子群が人体組織の局所に大きな割合で形成される場合と、それが人体の各所に薄く散らばっている場合とでどちらが危険かは、私にはわかりませんが、矢ヶ崎さんの論点を批判するなら、この点をおいて他にありません。

    2)同じ理由でα線の方がもっと危険であるというのが矢ヶ崎さんの論点です。Looperさんも書かれているように、ICRPの勧告でも、γ線、β線の放射線加重係数が1であるのに対して(これ自体がおかしいというのが矢ヶ崎さんの主張ですが)、α線のそれは20となっています。しかし、α線の飛程を考慮すると、その加重係数は一桁以上違っている筈であるという訳です。

    私自身、この間「20」の根拠を追跡していたのですが、今だ見つけることが出来ずにいます。沢山の方がICRP 勧告の数値を鵜呑みにして持論を展開されていますが、その根拠を追跡した方を知りません。この点では、矢ヶ崎さんも、科学者としてそれを批判するならICRP勧告の元となった論文なりを引用して批判すべきだと思います。

    それから、あまり本質的なことではありませんが、
    >光電効果: γ線のエネルギーとほぼ同じエネルギーの電子線(β線)を発生させる。

    というのは間違いです。一般的なエネルギーのγ線・X線の領域で起こる光電効果で弾き出される軌道電子のエネルギーは、照射された電磁波のエネルギーよりかなり小さくなります。一つの原子から軌道電子が弾き出されると、空席となった軌道へ外殻軌道から電子が落ち込んできて(軌道遷移)、そのエネルギー順位の差に相当する蛍光X線が放射されます。そのエネルギーを合わせた分が、ほぼ、励起源となった電磁波のエネルギーになります。

  2. Looper | URL | QpqRtz9Y

    Re: 誤解では

    さつきさん、

    このブログ、ずっと放置していたので承認忘れててごめんなさい。
    今更返信しても、見てないだろうけど、一応返信しておきます。

    > 論点は二つあります。
    >
    > 1)矢ヶ崎さんがリンク先のpdfファイルで主張されていることの趣旨は、α、β、γ線それぞれの透過能力(電磁波であるγ線については半価層や1/10価層の厚さ、粒子線であるβ線、α線については飛程)は大きく異なるが、同じエネルギーでも透過能力の弱い放射線ほど電離作用が局所化するので、内部被曝の危険性が高まるというものです。

    はい、α線はそれで良いし、私も否定していない。
    ICPRでも、同じエネルギーであれば、βやγ線の20倍危険だとしていますよね。

    で、矢ケ崎さんの可笑しいのは、それをβ線もγ線よりもずっと危険だとしている点です。
    このβ線は近隣に電離を起こすからγ線よりも遥かに危険だと言っているのが誤謬なのです。
    これは、どちらも結局電子線になるので、同じエネルギーの電子線なら影響も同じだと言う事です。
    ICPRの係数がどちらも同じ1になっているのもそのためでしょう。

    > 例えば、2.2 MeVのγ線の鉛(比重11.34)の半価層は1.4 cmで、人体の比重を1.0と仮定すると、人体中では16 cmほど進んで、つまり人体をほぼ突き抜けて、そのエネルギーの半分だけが失われます。Looperさんが書かれたように、その途上での電離作用では電子線が介在していますが、その影響は広範囲に<薄く>広がる訳です。

    それは分かっています。
    しかし、矢ケ崎氏の主張はそういうものではない。
    まずγ線では2.2MeVの半分しか吸収されないのですから、同じエネルギーを吸収した場合とで比較しないといけません。そして、その場合には、矢ケ崎氏の言うような違いはないですよと言っています。

    通常、臓器にはβ線源がバラバラに分布しています。
    そこから、あるエネルギーの電子線が出て、1cm程度で吸収される。
    γ線もその臓器をバラバラに通過し、ある地点でコンプトン効果や光電効果を起こして電子線を発する。
    このエネルギーが同じであれば、同様にその近辺1cm程度で吸収される。
    もちろん、コンプトン効果では、電子線を複数出す事になります。
    しかし、電子線の軌跡は1cm程度と、細胞の大さよりずーーーっと長いのです。
    では、臓器にバラバラに分布した100個のβ線が1億個の細胞を通った場合と、同じく臓器にバラバラに照射されたγ線による1000個の電子線が1億個の細胞を通った場合とで、それぞれの細胞やその周辺での影響にどんな違いがあるでしょうか?
    このように、γ線とβ線の比較では、吸収されたエネルギーが同じというのは、結局、電子線が通過した細胞の総数がほぼ同じと読み替える事も出来ます。そして、その分布にも大きな違いはありません。
    であれば、どう見ても影響はほとんど同じであり、矢ケ崎氏が言うような何億倍もの違いなどあろうはずもありません。

    > それから、あまり本質的なことではありませんが、
    > >光電効果: γ線のエネルギーとほぼ同じエネルギーの電子線(β線)を発生させる。
    >
    > というのは間違いです。一般的なエネルギーのγ線・X線の領域で起こる光電効果で弾き出される軌道電子のエネルギーは、照射された電磁波のエネルギーよりかなり小さくなります。一つの原子から軌道電子が弾き出されると、空席となった軌道へ外殻軌道から電子が落ち込んできて(軌道遷移)、そのエネルギー順位の差に相当する蛍光X線が放射されます。そのエネルギーを合わせた分が、ほぼ、励起源となった電磁波のエネルギーになります。

    それは分かった上で書いていますが、かなり小さくはなりません。
    基底状態からはじき飛ばすのに必要なエネルギーは、蛍光X線と同等ですが、原子にもよりますが、今回問題となっているセシウム137などからのγ線のエネルギーよりも一桁以上は下です。多少は減る事は承知ですが、ほぼ同じと言っても間違いは無いと思います。

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